「苦労」が多いから「商売」を
いままで、会社で、家庭で、教育の場で失敗に失敗を重ねて、病気になるまで自分を追いつめた経験をした人たちが、あらためて「商売」に挑戦する。いわば鉛の船を海に浮かべるに等しいプロジェクトが、過疎の町の片隅で始まった。
それは、「能率によって人を切り捨てない」ことと、「経済的な利益」を生み出すと言う相反するテーマへの挑戦でもあった。さらには、「努力の末に病気や障害を『克服』し『健常者』の社会に復帰する」と言う「物語」に切り捨てられてきた人たちが、無謀にも新しい価値観を持ってその現実の中に飛び込むことを意味した。
1983年にはじまった日高昆布の下請け、88年からの産地直送事業、そして93年の有限会社設立。べてるは「商売」にこだわってきた。「なぜ、商売なのか」とよく聞かれる。それは「苦労が多い」からである。「生きる苦労」という、きわめて人間的な、あたりまえの営みをとりもどすために、べてるはこの地で「商売」をはじめた。